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黄昏に偽りのキスを kiss scene17 - 2011.05.06 Fri

 翌日、着替えを調達しなければならなかった。店があく時間をまって服をそろえる。出社したのは十一時をまわった頃だった。本当なら眼鏡も用意したかったのだが、さすがに眼科にまで足を運ぶ時間的余裕はない。今夜にでも用意しなくては。今度はコンタクトレンズにしたほうが良さそうだ。少なくとも他人に壊される配はない。
 京介と社内のフロアを歩いていると大室京香(おおむろきょうか)が近づいてきた。先を歩いていた京介が足をとめ、なにごとかと伺ってきた。
「榛名さん、昨日は大丈夫でしたか」
 京香が心配げに声をかけてきた。
「はい。せっかくの合コンなのに、お騒がせしてすみませんでした」
「そんな」
 言って、京香が頬を赤らめた。榛名は「また誘ってください」というと、そのまま歩きだした。もう誘われることもないだろう。副社長と池田の姿を、あの場所にいた参加者全員が見ている。昨夜の騒動で、榛名になんらかのレッテルが貼られたであろうことは想像に難くない。


 専務室にはいり日課となったサイフォンを用意していると、京介が性懲りもなく背後から抱きしめてきた。
「専務、サイフォンを扱っている時は、危ないですから」
「火を消したらいい」
 京介の柔らかな声が聞こえてきた。昼間の京介は好きだ。いつもなら心地よい響きのはずなのだが、今朝ばかりは昨夜から燻(くすぶ)りつづけている怒りに火がつきそうだった。榛名は「お願いですから」と言い、力任せに京介の腕をふりほどいた。京介が憮然として後ずさりデスクに戻っていく。
 こうなったら、いつだって辞めてやる……。
 心理的には交戦状態である。蓄積された捌け口のない怒りや憤りや欲情、そのなにもかもが綯(な)い交ぜになって意識を尖らせていた。
 午後になり、榛名がなんとか荒んだ意識を飛ばし資料に没頭していると、京介が何の前ぶれもなくソファにおし倒してきた。
「専務」
 京介がいきなりネクタイに手をかけてくる。榛名は息をのんだ。これまで、京介は服を脱がそうとしたことはなかった。またたくまに音をたてネクタイが引き抜かれる。次にはワイシャツのボタンに手がかかった。榛名が京介の手首をつかむ。京介がさせじと馬乗りになってきた。京介がシャツの襟を左右に大きくひらいてくる。上半身がカメラの前に曝けだされた。
「専務、やめてください」
 露わになった胸元に京介が唇を這わせてきた。とたんに全身が熱を帯びる。京介が胸元から首筋へ、なぞるように舌を滑らせてきた。
 あ……。
 これまでにない快感に意識が波打ちだした。抗(あらが)えない。乱れだす呼吸を抑えられない。
「や……」
「悠一」
「専務……やだ……」
「夜まで待てない」
 京介が腰をおしつけ軽くゆさぶりをかけてくる。榛名は声をあげ体を仰け反らせた。
「愛してる。悠一も、僕を愛してるよね」
 言いながら、京介の手がベルトにかかる。榛名は京介を見上げ呆然とした。京介は眉一つ動かさず、いつもの優しげな顔で榛名を見下ろしていた。
 どうして……?
 京介という人間がわからない。ここまでする必要はないはずだ。そのうち信じてもらえるなどと考えていた自分が滑稽に思えてきた。やはり捨て駒以外の何者でもなかったのだ。現に京介は、榛名にたいして何の感情も持ち合わせてはいない。
 期待して欲しかったわけじゃない……。
 期待されないことには慣れているはずだった。あるいは、心のどこかで自分に期待していたのだろうか。愛人契約のせいだ。自分には一千万の価値があると無意識のうちに生まれた驕(おご)りが、いつもの冷静な判断を狂わせた。今ならわかる。京介たちにとって欲しかったのは利用価値のある人間ではない。失っても惜しくない、なんの価値もない人間だったのだ。
 それでも、役に立ちたいと思っていたんだ……。
 榛名の目から涙がこぼれおちた。京介がぎくりとして手をとめる。榛名は手の甲で涙を拭うと、力なく微笑んだ。
「僕も、愛しています」
「………」
 仮面がはずれた。おそらく今の京介は、カメラの存在さえ失念してしまっている。
「榛名……」
 突然、ノックの音が響いた。京介が我にかえる間もなく勢いよくドアがひらかれる。入ってきたのは貝原孝之だった。
「お邪魔でしたか」
 京介が榛名を抱き起こした。すばやく上着を脱ぎ榛名にかける。榛名は逃げるようにして給湯室に身をかくした。孝之が薄笑いを浮かべ京介に歩み寄る。京介は悠揚として衣服をなおし「ご用件は」と、訊ねた。
「会長が専務の顔が見たいと仰いますので、お連れしました」
「会長が……?」
 榛名が覗き見る。半開きになったドアから会長の貝原龍之介が姿をあらわした。
 あれが、貝原龍之介……。
 龍之介は、ここ数年、会社の重役にさえ滅多に姿を見せないと聞いていた。片足が不自由なのかステッキをついている。龍之介は、そのまま京介に近づいていくと、こともあろうかステッキを持ち上げ、京介の頭上に振りおろした。京介が咄嗟に身を交わす。宙を切ったステッキがソファをしたたかに打った。榛名が胸を撫でおろしていると、龍之介が榛名に蔑(さげす)んだ一瞥をなげてきた。その眼光の鋭さに、榛名は金縛りにあったかのように立ち尽くした。
「オフィスに薄汚い男娼つれこんで、この醜態はなんだ」
 京介が不敵に笑ってみせた。
「秘書ですよ、お父さん」
「黙らっしゃい。おまえには恥というものが無いのか。おまえの母親も淫乱な女だったが、おまえは母親以上だな」
 いつからいたのか、斉藤が大股に京介に歩みよった。京介がかまわず龍之介に掴みかかろうとする。斉藤が京介の名を叫び、抱くようにして脇から押しとどめた。
「離せ!」
 京介が叫ぶが、斉藤は聞いていない。龍之介に「会長、どうか今日のところは」といって、深々と頭をさげた。
「斉藤、おまえ、ここで何をしておるんだ」
「運転手です」
「必要ない」
「社長のお言いつけですので」
「会長、あまりお怒りになられますと、お体に障ります」
 孝之だった。とってつけたような台詞に京介が失笑する。
「会長の死を一番望んでいるのは、あなたでしょう。副社長」
 京介の言葉に、孝之が顔色を変えた。


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早瀬 ミサキ

Author:早瀬 ミサキ
わたし、早瀬ミサキのオリジナル小説を紹介しています。ラブシーンは少なく女性も多く登場します。ジャンル上BLを掲げていますが、内容は成人男性のみのメンズラブ(同性愛小説)です。いずれにしても「MEN&MEN」ですので、苦手な方は、ご遠慮下さい。また、記事によりR15指定を含む内容がございます。申し訳ございませんが15歳未満の方の閲覧は、どうかご遠慮ください。

と……ここまで書いておいてナンでございますが、タイトルにございますように、現在、臨時公開場所としてのみの投稿となっております( ̄▽ ̄;)。今後、このブログを他にどのように使用するか検討中でございますこと御了承くださいませ(汗)

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