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黄昏はいつも優しくて3 ~第34話~ - 2011.05.06 Fri
篠塚の手が太股から無造作に触れてきた。
体の力をぬき素直に身をゆだねる。ざらりとした手刺しの胴衣が胸にあたり肌が粟立った。
黄昏の弱々しい光が篠塚の輪郭を描いている。表情が影になり濡れたような瞳がじっと瞬をみおろしていた。
また……。
いきそうになると手の動きが鈍くなる。故意にやっているのか。じれったさに篠塚の襟元(えりもと)をやにわにつかむ。
「……いきたい」
篠塚の指がさらりと唇を撫ぜてきた。
「あいつとキスをしたのか」
こんなときに……。
くすぶった劣情に必死になって歯止めをかける。もったいぶった篠塚の手の動きに、怒りにも似た感情が頭をもたげてきた。
もういい……。
自慰行為でいい。もう耐えられない。どうにかなってしまいそうだ。篠塚の手をしりぞけようとするが、またしても篠塚に払いのけられた。
「や……」
「あいつと寝た」
激しく首を横にしながら力任せに篠塚の胸をおしやる。だがびくともしない。噛みしめた歯のすきまから嗚咽がこぼれでた。
「瞬……」
篠塚が唇をかさねてきた。おしひらくようにして舌がすべりこんでくる。体が萎えてしまいそうだ。
腰をうかせ愛撫をねだる。篠塚がようやくこたえてきた。
またたくまに劣情の虜になる。乱れた胴衣と片足にかかった袴。そんな姿をさらしていることさえ、もうどうでもよくなっていた。
篠塚の首に腕をまきつけ首筋に歯をたてる。篠塚がぴくりとして頬にくちづけてきた。
「もう……」
叫びににた嬌声をあげ腕をなげだす。焦らされたことよりも心地よい開放感が勝(まさ)った。
「一緒に暮らそう」
篠塚がいった。
余韻がまださめていない。意識の焦点があわない。ぼんやりとした面持ちで篠塚をみあげる。
篠塚がふたたび「瞬、一緒に暮らそう」と、ささやいた。
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体の力をぬき素直に身をゆだねる。ざらりとした手刺しの胴衣が胸にあたり肌が粟立った。
黄昏の弱々しい光が篠塚の輪郭を描いている。表情が影になり濡れたような瞳がじっと瞬をみおろしていた。
また……。
いきそうになると手の動きが鈍くなる。故意にやっているのか。じれったさに篠塚の襟元(えりもと)をやにわにつかむ。
「……いきたい」
篠塚の指がさらりと唇を撫ぜてきた。
「あいつとキスをしたのか」
こんなときに……。
くすぶった劣情に必死になって歯止めをかける。もったいぶった篠塚の手の動きに、怒りにも似た感情が頭をもたげてきた。
もういい……。
自慰行為でいい。もう耐えられない。どうにかなってしまいそうだ。篠塚の手をしりぞけようとするが、またしても篠塚に払いのけられた。
「や……」
「あいつと寝た」
激しく首を横にしながら力任せに篠塚の胸をおしやる。だがびくともしない。噛みしめた歯のすきまから嗚咽がこぼれでた。
「瞬……」
篠塚が唇をかさねてきた。おしひらくようにして舌がすべりこんでくる。体が萎えてしまいそうだ。
腰をうかせ愛撫をねだる。篠塚がようやくこたえてきた。
またたくまに劣情の虜になる。乱れた胴衣と片足にかかった袴。そんな姿をさらしていることさえ、もうどうでもよくなっていた。
篠塚の首に腕をまきつけ首筋に歯をたてる。篠塚がぴくりとして頬にくちづけてきた。
「もう……」
叫びににた嬌声をあげ腕をなげだす。焦らされたことよりも心地よい開放感が勝(まさ)った。
「一緒に暮らそう」
篠塚がいった。
余韻がまださめていない。意識の焦点があわない。ぼんやりとした面持ちで篠塚をみあげる。
篠塚がふたたび「瞬、一緒に暮らそう」と、ささやいた。
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黄昏に偽りのキスを kiss scene17 - 2011.05.06 Fri
翌日、着替えを調達しなければならなかった。店があく時間をまって服をそろえる。出社したのは十一時をまわった頃だった。本当なら眼鏡も用意したかったのだが、さすがに眼科にまで足を運ぶ時間的余裕はない。今夜にでも用意しなくては。今度はコンタクトレンズにしたほうが良さそうだ。少なくとも他人に壊される配はない。
京介と社内のフロアを歩いていると大室京香(おおむろきょうか)が近づいてきた。先を歩いていた京介が足をとめ、なにごとかと伺ってきた。
「榛名さん、昨日は大丈夫でしたか」
京香が心配げに声をかけてきた。
「はい。せっかくの合コンなのに、お騒がせしてすみませんでした」
「そんな」
言って、京香が頬を赤らめた。榛名は「また誘ってください」というと、そのまま歩きだした。もう誘われることもないだろう。副社長と池田の姿を、あの場所にいた参加者全員が見ている。昨夜の騒動で、榛名になんらかのレッテルが貼られたであろうことは想像に難くない。
専務室にはいり日課となったサイフォンを用意していると、京介が性懲りもなく背後から抱きしめてきた。
「専務、サイフォンを扱っている時は、危ないですから」
「火を消したらいい」
京介の柔らかな声が聞こえてきた。昼間の京介は好きだ。いつもなら心地よい響きのはずなのだが、今朝ばかりは昨夜から燻(くすぶ)りつづけている怒りに火がつきそうだった。榛名は「お願いですから」と言い、力任せに京介の腕をふりほどいた。京介が憮然として後ずさりデスクに戻っていく。
こうなったら、いつだって辞めてやる……。
心理的には交戦状態である。蓄積された捌け口のない怒りや憤りや欲情、そのなにもかもが綯(な)い交ぜになって意識を尖らせていた。
午後になり、榛名がなんとか荒んだ意識を飛ばし資料に没頭していると、京介が何の前ぶれもなくソファにおし倒してきた。
「専務」
京介がいきなりネクタイに手をかけてくる。榛名は息をのんだ。これまで、京介は服を脱がそうとしたことはなかった。またたくまに音をたてネクタイが引き抜かれる。次にはワイシャツのボタンに手がかかった。榛名が京介の手首をつかむ。京介がさせじと馬乗りになってきた。京介がシャツの襟を左右に大きくひらいてくる。上半身がカメラの前に曝けだされた。
「専務、やめてください」
露わになった胸元に京介が唇を這わせてきた。とたんに全身が熱を帯びる。京介が胸元から首筋へ、なぞるように舌を滑らせてきた。
あ……。
これまでにない快感に意識が波打ちだした。抗(あらが)えない。乱れだす呼吸を抑えられない。
「や……」
「悠一」
「専務……やだ……」
「夜まで待てない」
京介が腰をおしつけ軽くゆさぶりをかけてくる。榛名は声をあげ体を仰け反らせた。
「愛してる。悠一も、僕を愛してるよね」
言いながら、京介の手がベルトにかかる。榛名は京介を見上げ呆然とした。京介は眉一つ動かさず、いつもの優しげな顔で榛名を見下ろしていた。
どうして……?
京介という人間がわからない。ここまでする必要はないはずだ。そのうち信じてもらえるなどと考えていた自分が滑稽に思えてきた。やはり捨て駒以外の何者でもなかったのだ。現に京介は、榛名にたいして何の感情も持ち合わせてはいない。
期待して欲しかったわけじゃない……。
期待されないことには慣れているはずだった。あるいは、心のどこかで自分に期待していたのだろうか。愛人契約のせいだ。自分には一千万の価値があると無意識のうちに生まれた驕(おご)りが、いつもの冷静な判断を狂わせた。今ならわかる。京介たちにとって欲しかったのは利用価値のある人間ではない。失っても惜しくない、なんの価値もない人間だったのだ。
それでも、役に立ちたいと思っていたんだ……。
榛名の目から涙がこぼれおちた。京介がぎくりとして手をとめる。榛名は手の甲で涙を拭うと、力なく微笑んだ。
「僕も、愛しています」
「………」
仮面がはずれた。おそらく今の京介は、カメラの存在さえ失念してしまっている。
「榛名……」
突然、ノックの音が響いた。京介が我にかえる間もなく勢いよくドアがひらかれる。入ってきたのは貝原孝之だった。
「お邪魔でしたか」
京介が榛名を抱き起こした。すばやく上着を脱ぎ榛名にかける。榛名は逃げるようにして給湯室に身をかくした。孝之が薄笑いを浮かべ京介に歩み寄る。京介は悠揚として衣服をなおし「ご用件は」と、訊ねた。
「会長が専務の顔が見たいと仰いますので、お連れしました」
「会長が……?」
榛名が覗き見る。半開きになったドアから会長の貝原龍之介が姿をあらわした。
あれが、貝原龍之介……。
龍之介は、ここ数年、会社の重役にさえ滅多に姿を見せないと聞いていた。片足が不自由なのかステッキをついている。龍之介は、そのまま京介に近づいていくと、こともあろうかステッキを持ち上げ、京介の頭上に振りおろした。京介が咄嗟に身を交わす。宙を切ったステッキがソファをしたたかに打った。榛名が胸を撫でおろしていると、龍之介が榛名に蔑(さげす)んだ一瞥をなげてきた。その眼光の鋭さに、榛名は金縛りにあったかのように立ち尽くした。
「オフィスに薄汚い男娼つれこんで、この醜態はなんだ」
京介が不敵に笑ってみせた。
「秘書ですよ、お父さん」
「黙らっしゃい。おまえには恥というものが無いのか。おまえの母親も淫乱な女だったが、おまえは母親以上だな」
いつからいたのか、斉藤が大股に京介に歩みよった。京介がかまわず龍之介に掴みかかろうとする。斉藤が京介の名を叫び、抱くようにして脇から押しとどめた。
「離せ!」
京介が叫ぶが、斉藤は聞いていない。龍之介に「会長、どうか今日のところは」といって、深々と頭をさげた。
「斉藤、おまえ、ここで何をしておるんだ」
「運転手です」
「必要ない」
「社長のお言いつけですので」
「会長、あまりお怒りになられますと、お体に障ります」
孝之だった。とってつけたような台詞に京介が失笑する。
「会長の死を一番望んでいるのは、あなたでしょう。副社長」
京介の言葉に、孝之が顔色を変えた。
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京介と社内のフロアを歩いていると大室京香(おおむろきょうか)が近づいてきた。先を歩いていた京介が足をとめ、なにごとかと伺ってきた。
「榛名さん、昨日は大丈夫でしたか」
京香が心配げに声をかけてきた。
「はい。せっかくの合コンなのに、お騒がせしてすみませんでした」
「そんな」
言って、京香が頬を赤らめた。榛名は「また誘ってください」というと、そのまま歩きだした。もう誘われることもないだろう。副社長と池田の姿を、あの場所にいた参加者全員が見ている。昨夜の騒動で、榛名になんらかのレッテルが貼られたであろうことは想像に難くない。
専務室にはいり日課となったサイフォンを用意していると、京介が性懲りもなく背後から抱きしめてきた。
「専務、サイフォンを扱っている時は、危ないですから」
「火を消したらいい」
京介の柔らかな声が聞こえてきた。昼間の京介は好きだ。いつもなら心地よい響きのはずなのだが、今朝ばかりは昨夜から燻(くすぶ)りつづけている怒りに火がつきそうだった。榛名は「お願いですから」と言い、力任せに京介の腕をふりほどいた。京介が憮然として後ずさりデスクに戻っていく。
こうなったら、いつだって辞めてやる……。
心理的には交戦状態である。蓄積された捌け口のない怒りや憤りや欲情、そのなにもかもが綯(な)い交ぜになって意識を尖らせていた。
午後になり、榛名がなんとか荒んだ意識を飛ばし資料に没頭していると、京介が何の前ぶれもなくソファにおし倒してきた。
「専務」
京介がいきなりネクタイに手をかけてくる。榛名は息をのんだ。これまで、京介は服を脱がそうとしたことはなかった。またたくまに音をたてネクタイが引き抜かれる。次にはワイシャツのボタンに手がかかった。榛名が京介の手首をつかむ。京介がさせじと馬乗りになってきた。京介がシャツの襟を左右に大きくひらいてくる。上半身がカメラの前に曝けだされた。
「専務、やめてください」
露わになった胸元に京介が唇を這わせてきた。とたんに全身が熱を帯びる。京介が胸元から首筋へ、なぞるように舌を滑らせてきた。
あ……。
これまでにない快感に意識が波打ちだした。抗(あらが)えない。乱れだす呼吸を抑えられない。
「や……」
「悠一」
「専務……やだ……」
「夜まで待てない」
京介が腰をおしつけ軽くゆさぶりをかけてくる。榛名は声をあげ体を仰け反らせた。
「愛してる。悠一も、僕を愛してるよね」
言いながら、京介の手がベルトにかかる。榛名は京介を見上げ呆然とした。京介は眉一つ動かさず、いつもの優しげな顔で榛名を見下ろしていた。
どうして……?
京介という人間がわからない。ここまでする必要はないはずだ。そのうち信じてもらえるなどと考えていた自分が滑稽に思えてきた。やはり捨て駒以外の何者でもなかったのだ。現に京介は、榛名にたいして何の感情も持ち合わせてはいない。
期待して欲しかったわけじゃない……。
期待されないことには慣れているはずだった。あるいは、心のどこかで自分に期待していたのだろうか。愛人契約のせいだ。自分には一千万の価値があると無意識のうちに生まれた驕(おご)りが、いつもの冷静な判断を狂わせた。今ならわかる。京介たちにとって欲しかったのは利用価値のある人間ではない。失っても惜しくない、なんの価値もない人間だったのだ。
それでも、役に立ちたいと思っていたんだ……。
榛名の目から涙がこぼれおちた。京介がぎくりとして手をとめる。榛名は手の甲で涙を拭うと、力なく微笑んだ。
「僕も、愛しています」
「………」
仮面がはずれた。おそらく今の京介は、カメラの存在さえ失念してしまっている。
「榛名……」
突然、ノックの音が響いた。京介が我にかえる間もなく勢いよくドアがひらかれる。入ってきたのは貝原孝之だった。
「お邪魔でしたか」
京介が榛名を抱き起こした。すばやく上着を脱ぎ榛名にかける。榛名は逃げるようにして給湯室に身をかくした。孝之が薄笑いを浮かべ京介に歩み寄る。京介は悠揚として衣服をなおし「ご用件は」と、訊ねた。
「会長が専務の顔が見たいと仰いますので、お連れしました」
「会長が……?」
榛名が覗き見る。半開きになったドアから会長の貝原龍之介が姿をあらわした。
あれが、貝原龍之介……。
龍之介は、ここ数年、会社の重役にさえ滅多に姿を見せないと聞いていた。片足が不自由なのかステッキをついている。龍之介は、そのまま京介に近づいていくと、こともあろうかステッキを持ち上げ、京介の頭上に振りおろした。京介が咄嗟に身を交わす。宙を切ったステッキがソファをしたたかに打った。榛名が胸を撫でおろしていると、龍之介が榛名に蔑(さげす)んだ一瞥をなげてきた。その眼光の鋭さに、榛名は金縛りにあったかのように立ち尽くした。
「オフィスに薄汚い男娼つれこんで、この醜態はなんだ」
京介が不敵に笑ってみせた。
「秘書ですよ、お父さん」
「黙らっしゃい。おまえには恥というものが無いのか。おまえの母親も淫乱な女だったが、おまえは母親以上だな」
いつからいたのか、斉藤が大股に京介に歩みよった。京介がかまわず龍之介に掴みかかろうとする。斉藤が京介の名を叫び、抱くようにして脇から押しとどめた。
「離せ!」
京介が叫ぶが、斉藤は聞いていない。龍之介に「会長、どうか今日のところは」といって、深々と頭をさげた。
「斉藤、おまえ、ここで何をしておるんだ」
「運転手です」
「必要ない」
「社長のお言いつけですので」
「会長、あまりお怒りになられますと、お体に障ります」
孝之だった。とってつけたような台詞に京介が失笑する。
「会長の死を一番望んでいるのは、あなたでしょう。副社長」
京介の言葉に、孝之が顔色を変えた。
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黄昏に偽りのキスを kiss scene22 - 2011.05.05 Thu
「死んだ……?」
榛名は京介の前までいき、「どういうことですか」と、言葉をついだ。京介が小さくかぶりをふる。
「手塚課長は、どうやって亡くなったんですか」
「………」
「副社長と、なにか関わりがあるんですか」
京介が、ふたたびベッドに寝転んだ。かたく目をつぶり無言をつらぬく構えのようだ。
「僕には、何も言えない。そうなんですね」
京介は何も答えない。榛名は唇を噛むとクローゼットにむかった。中からワイシャツを引っ掴む。
「わかりました。どうせ、斉藤さんがすぐに来るんですよね? 僕がいたらお邪魔でしょうから、僕はこれで失礼します」
京介が慌てて上体をおこしてきた。
「斉藤は、今夜はこない」
「そうですか。だったら一人で泊まってください」
「なにを剥きになっているんだ」
京介が横まできて榛名を顔をのぞきこんでくる。榛名は背を向けるようにしてバスローブを脱いだ。もう、好きなようにすればいい。自分には関わりのないことだ。捨て駒の出る幕などない。気を揉むだけ損だと、思いつく限り胸中で毒づく。
ワイシャツに手を通したところで京介が背後から抱きしめてきた。
「専務」
「なんだ」
「契約破棄しましたよね」
「認めない」
「あまり僕に、さわらないほうがいいですよ」
「どうして」
「たまってるんです」
言って、榛名が肩越しに睨む。京介が意味がわからないといった面持ちで腕をほどいてきた。
「たまってる?」
「僕だって男ですから、あれだけ連日べたべたされたら相手がたとえ専務でも、たまるものはたまるんです。ごていねいに盗聴器まで仕掛けてあって自慰行為もできませんし。今、僕を刺激すると襲ってしまうかも知れませんよ」
京介は唖然としたが、つぎには盛大に吹きだした。そのうち腹を抱えて笑いだす。どうやら本当の京介も笑い上戸であるらしい。
「これだから、おまえを手放せない」
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榛名は京介の前までいき、「どういうことですか」と、言葉をついだ。京介が小さくかぶりをふる。
「手塚課長は、どうやって亡くなったんですか」
「………」
「副社長と、なにか関わりがあるんですか」
京介が、ふたたびベッドに寝転んだ。かたく目をつぶり無言をつらぬく構えのようだ。
「僕には、何も言えない。そうなんですね」
京介は何も答えない。榛名は唇を噛むとクローゼットにむかった。中からワイシャツを引っ掴む。
「わかりました。どうせ、斉藤さんがすぐに来るんですよね? 僕がいたらお邪魔でしょうから、僕はこれで失礼します」
京介が慌てて上体をおこしてきた。
「斉藤は、今夜はこない」
「そうですか。だったら一人で泊まってください」
「なにを剥きになっているんだ」
京介が横まできて榛名を顔をのぞきこんでくる。榛名は背を向けるようにしてバスローブを脱いだ。もう、好きなようにすればいい。自分には関わりのないことだ。捨て駒の出る幕などない。気を揉むだけ損だと、思いつく限り胸中で毒づく。
ワイシャツに手を通したところで京介が背後から抱きしめてきた。
「専務」
「なんだ」
「契約破棄しましたよね」
「認めない」
「あまり僕に、さわらないほうがいいですよ」
「どうして」
「たまってるんです」
言って、榛名が肩越しに睨む。京介が意味がわからないといった面持ちで腕をほどいてきた。
「たまってる?」
「僕だって男ですから、あれだけ連日べたべたされたら相手がたとえ専務でも、たまるものはたまるんです。ごていねいに盗聴器まで仕掛けてあって自慰行為もできませんし。今、僕を刺激すると襲ってしまうかも知れませんよ」
京介は唖然としたが、つぎには盛大に吹きだした。そのうち腹を抱えて笑いだす。どうやら本当の京介も笑い上戸であるらしい。
「これだから、おまえを手放せない」
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黄昏はいつも優しくて2 second scene134 ~Episode・Shinozuka4~ - 2011.05.05 Thu
その後は自分でも情けないほど理性がきかなかった。
「欲しい」
「篠……」
「嫌かとは訊かない。……どうしても欲しい」
「………」
はじめてのセックスだった。それまでの行為は瞬の反応をうかがいながら肌を寄せあうだけの抱擁でしかない。篠塚にしてみればスキンシップに近しい。だが、この夜だけは、どうにも歯止めがきかなかった。
どうしてだろう。瞬は抵抗らしい抵抗をしてこない。いつもの激しい拒絶を感じない。北沢との行為に対する謝罪だろうか。それとも、すでに北沢と……。
考えれば考えるほど袋小路だ。目の前にいるのが男だということさえ忘れてしまう。
瞬がわずかな抵抗をしてきた。そのとき瞬に投げた言葉に自分でも辟易(へきえき)としてしまった。
「さっきのおまえは嫌がってなかった。どうしてだ」
抑えようのない嫉妬心。つくろいようのない傷心を八つも年下の、しかも同性にぶつけている。
なにをやってるんだ、俺は……。
このわずかな理性さえも、瞬の中にはいったとき跡形もなく砕け散った。
瞬という人間には、ひそとした湖畔のイメージがある。ときおり波紋をひろげ、つかの間、水面下をのぞかせるが、すぐと波紋はおさまり、なにごともなかったかのように元の静寂をとりもどす。時折、その鏡のような水面に石を投げ込みたくなる。
この夜の瞬は、まさにその水面下の顔を篠塚にさらけだしてきた。激しく喘ぎながら、すがりつくように篠塚の背中に腕をまわしてくる。苦痛なのか悶えているのか。そんなことはどうでもいい。あきらかに女とは違う。淫らにのたうつ、なだらかな肢体。それは、これまで抱いたどんな女より篠塚を夢中にさせた。
「もう……」
「瞬」
「おかしくなる……」
この時の気持ちをどう表現したらいいだろう。支配欲というのが一番ちかいかもしれない。
相手が女なら、これほど支配することに執着したり愉悦を感じたりはしないだろう。タブーを犯しているという認識が、より篠塚を興奮させた。
獣欲に支配されているのは己自身だ。わかっていながら瞬の嬌態に目がくらむ。目が離せない。
「もっと乱れろ」
似たような感覚を以前にも一度だけ味わったことがある。マケインの暴行未遂の夜だ。篠塚の部屋のベッドでみせた表情。あの夜の瞬と今夜の瞬が頭のなかでかさなる。
このとき自身の口をついてでてきた言葉は篠塚にとって最低の言葉だった。
「愛してる……」
この言葉は好きじゃない。本当に好きな相手にはいえない、そうおもっていた。だが驚いたことに、瞬はその言葉に涙をみせた。
「……愛してるって」
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「欲しい」
「篠……」
「嫌かとは訊かない。……どうしても欲しい」
「………」
はじめてのセックスだった。それまでの行為は瞬の反応をうかがいながら肌を寄せあうだけの抱擁でしかない。篠塚にしてみればスキンシップに近しい。だが、この夜だけは、どうにも歯止めがきかなかった。
どうしてだろう。瞬は抵抗らしい抵抗をしてこない。いつもの激しい拒絶を感じない。北沢との行為に対する謝罪だろうか。それとも、すでに北沢と……。
考えれば考えるほど袋小路だ。目の前にいるのが男だということさえ忘れてしまう。
瞬がわずかな抵抗をしてきた。そのとき瞬に投げた言葉に自分でも辟易(へきえき)としてしまった。
「さっきのおまえは嫌がってなかった。どうしてだ」
抑えようのない嫉妬心。つくろいようのない傷心を八つも年下の、しかも同性にぶつけている。
なにをやってるんだ、俺は……。
このわずかな理性さえも、瞬の中にはいったとき跡形もなく砕け散った。
瞬という人間には、ひそとした湖畔のイメージがある。ときおり波紋をひろげ、つかの間、水面下をのぞかせるが、すぐと波紋はおさまり、なにごともなかったかのように元の静寂をとりもどす。時折、その鏡のような水面に石を投げ込みたくなる。
この夜の瞬は、まさにその水面下の顔を篠塚にさらけだしてきた。激しく喘ぎながら、すがりつくように篠塚の背中に腕をまわしてくる。苦痛なのか悶えているのか。そんなことはどうでもいい。あきらかに女とは違う。淫らにのたうつ、なだらかな肢体。それは、これまで抱いたどんな女より篠塚を夢中にさせた。
「もう……」
「瞬」
「おかしくなる……」
この時の気持ちをどう表現したらいいだろう。支配欲というのが一番ちかいかもしれない。
相手が女なら、これほど支配することに執着したり愉悦を感じたりはしないだろう。タブーを犯しているという認識が、より篠塚を興奮させた。
獣欲に支配されているのは己自身だ。わかっていながら瞬の嬌態に目がくらむ。目が離せない。
「もっと乱れろ」
似たような感覚を以前にも一度だけ味わったことがある。マケインの暴行未遂の夜だ。篠塚の部屋のベッドでみせた表情。あの夜の瞬と今夜の瞬が頭のなかでかさなる。
このとき自身の口をついてでてきた言葉は篠塚にとって最低の言葉だった。
「愛してる……」
この言葉は好きじゃない。本当に好きな相手にはいえない、そうおもっていた。だが驚いたことに、瞬はその言葉に涙をみせた。
「……愛してるって」
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黄昏はいつも優しくて2 second scene91 - 2011.05.05 Thu
「うっ……」
内臓ごと突きあげられる感覚に短いうめき声がもれる。
篠塚が心配げに顔をのぞきこんできた。
「辛いのなら」
「大丈夫ですから」
熱い……。
篠塚の熱を感じる。
脈打つような浅い呼吸と投げだされた躰。
篠塚の動きに翻弄され、泡立つ肌がシーツの上でうねるような様相をみせる。
傷つけられることによって独占しようとする自傷にもにた、ねじれた欲情。
淫らにのたうつたび吐息ににた声が洩れでた。
満たされている、そう感じた。
先週、抱かれたときは篠塚を受けいれることさえ困難だった。だが、今夜はちがう。篠塚の荒い息遣いと肌の熱さにどうしようもなく劣情が掻きたてられる。心も体も投げだしてしまった。もう差しだせるものはなにもない。なのにどうしてだろう。ひらかれるたびに自壊していくプロセス。それを楽しんでいる、もう一人の自分がいる。
「瞬……」
耳元で淡く響く声に蕩(とろ)けてしまいそうだ。愛しさがとまらない。自分はすでに狂ってしまっているのかもしれない。
それでもいい……。
もっと乱暴に抱いてくれと、もっと壊してくれと懇願したくなる。
篠塚の腕に爪をたてる。瞬の媚態に誘われるかのように篠塚の動きが激しさを増した。
「あっ」
篠塚を貪りつくそうとする一方で肉体が悲鳴をあげだした。
「もう……」
忘我の亀裂に引きこまれそうになりながら必死に篠塚の腰に脚を絡ませる。自身の存在さえ危うくなってきた。
「壊れる……」
「いい」
「篠……」
「壊れていい」
苦痛と快感が一時に躰を駆け抜ける。悲鳴にもにた喘ぎが咽喉からこぼれでた。
篠塚が低く呻き声をあげ、ぐったりとして体をあずけてきた。
激しく上下する胸のしたで途切れた意識をひきもどす。もうなにもない。残っているのは篠塚への一途な想いだけだ。
「篠塚さん……篠塚さん……」
前回もそうだった。どうして涙がこぼれてしまうのだろう。満たされているはずなのに、この底知れない切なさはどこから沸いてくるのだ。
「愛してる」
篠塚がくりかえし囁いてくる。そのたびに嗚咽をこらえ肯いた。
篠塚の胸に手をあて静まらない鼓動をたしかめる。篠塚が肩から唇へとくちづけてきた。
瞬はかすかに笑みをこぼすと、そのまま事切れるように静かな寝息をたてだした。
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内臓ごと突きあげられる感覚に短いうめき声がもれる。
篠塚が心配げに顔をのぞきこんできた。
「辛いのなら」
「大丈夫ですから」
熱い……。
篠塚の熱を感じる。
脈打つような浅い呼吸と投げだされた躰。
篠塚の動きに翻弄され、泡立つ肌がシーツの上でうねるような様相をみせる。
傷つけられることによって独占しようとする自傷にもにた、ねじれた欲情。
淫らにのたうつたび吐息ににた声が洩れでた。
満たされている、そう感じた。
先週、抱かれたときは篠塚を受けいれることさえ困難だった。だが、今夜はちがう。篠塚の荒い息遣いと肌の熱さにどうしようもなく劣情が掻きたてられる。心も体も投げだしてしまった。もう差しだせるものはなにもない。なのにどうしてだろう。ひらかれるたびに自壊していくプロセス。それを楽しんでいる、もう一人の自分がいる。
「瞬……」
耳元で淡く響く声に蕩(とろ)けてしまいそうだ。愛しさがとまらない。自分はすでに狂ってしまっているのかもしれない。
それでもいい……。
もっと乱暴に抱いてくれと、もっと壊してくれと懇願したくなる。
篠塚の腕に爪をたてる。瞬の媚態に誘われるかのように篠塚の動きが激しさを増した。
「あっ」
篠塚を貪りつくそうとする一方で肉体が悲鳴をあげだした。
「もう……」
忘我の亀裂に引きこまれそうになりながら必死に篠塚の腰に脚を絡ませる。自身の存在さえ危うくなってきた。
「壊れる……」
「いい」
「篠……」
「壊れていい」
苦痛と快感が一時に躰を駆け抜ける。悲鳴にもにた喘ぎが咽喉からこぼれでた。
篠塚が低く呻き声をあげ、ぐったりとして体をあずけてきた。
激しく上下する胸のしたで途切れた意識をひきもどす。もうなにもない。残っているのは篠塚への一途な想いだけだ。
「篠塚さん……篠塚さん……」
前回もそうだった。どうして涙がこぼれてしまうのだろう。満たされているはずなのに、この底知れない切なさはどこから沸いてくるのだ。
「愛してる」
篠塚がくりかえし囁いてくる。そのたびに嗚咽をこらえ肯いた。
篠塚の胸に手をあて静まらない鼓動をたしかめる。篠塚が肩から唇へとくちづけてきた。
瞬はかすかに笑みをこぼすと、そのまま事切れるように静かな寝息をたてだした。
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